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今回ご紹介するのは、下村敦史さんの
闇に香る嘘
です
こちらは第60回江戸川乱歩賞受賞作です
本作は全盲の主人公、村上和久による視点により展開してゆきます

全盲の主人公による視点?
どういうこと?

全盲であっても、
『右から車が近づいてくる音がした』
のように、視点は成立するんですね
【闇に香る嘘】のあらすじ
満洲から引き揚げた後、失明した村上和久は、孫に腎臓を移植しようとするが検査の結果、不適合と知る

無理があるんちゃうか。
視覚情報抜きで、物語をどう描写するんや

らくだが、この本をリコメンドする理由もそこにあります
【闇に香る嘘】のポイント
たった一行のくだりで
殆どの謎や違和感は解消してしまう。

いったいどんな一行や!!

視覚障害者の視点描写
もちろん、この著者である下村先生は視覚障害者ではありませんが、多くの健常者には思い至れないようなことが、リアルにえがかれています
ここの交差点は音響装置付き信号機ではないので、渡るのが難しい。視覚障害者にとっては、行き交っているのが『音』だけでも、そこには必ず実態がある。一トンもの重量を持った鉄の塊だ。一寸の油断も許されない。隣からは少年同士の会話が聞こえてくる。
私は二人が渡りはじめたタイミングで足を踏み出した。クラクションとブレーキ音が耳をつんざいた。焦げたゴムの悪臭が鼻をついた気がした。迂闊だった。少年らは信号無視したのだろう。
永遠に続く常闇を見回した。闇に取り囲まれていて、正しい道を見つけ出す手がかりが何一つない。現在地はどこだろう。どこでどう間違ったのだろう。人通りのない場所で道に迷うと、立ち往生しなければならない。斜め右前方から、心臓を鷲掴みにする踏切警報機の甲高い鐘の音が聞こえてくる。直後、レールを掻き毟る金切り声じみた轟音と振動が伝わってくる。怖い。離れなくては。
私は仕事部屋で煙草を吸いながらアルバムをめくっていた。懐古の念に浸りきっていると、指先から煙草が滑り落ちた。「あっ」と声を上げ、闇の中で這いつくばって絨毯に手のひらを這わせた。どこだ?どこに落ちた? 〜
何かが弾ける音がした。鼻孔にに煙がしみる。愕然として振り返ると、漆黒の闇が濃紺の闇に変色していた。


それを主人公は「巨大な棺桶に閉じ込められたよう」と表現しています
家の中とて、想像以上に息苦しい環境ではないでしょうか
誰もいない筈の家の中で、微かな物音がしただけでも恐怖におそわれるそうです
もちろん、屋外での脅威となれば計り知れません
らくだが驚いたのは、まっすぐ歩けないということです
確かに目を閉じて歩こうとしたとき、目標とする地点もわからなければ、自分がフラつかない指針もありません
横断歩道の幅でさえ困難ですし、歩くスピードもとても遅いものとなり、途中で信号が赤に変わることも考慮しなければなりません
また、作中では電車のホームについての恐怖を
『ホームでは寿命を削る緊張を強いられる。谷に架せられた橋に欄干がないなら、晴眼者は目を閉じて歩く度胸があるだろうか。』と書かれています
確かに……恐怖です
様々な疑念や違和感の中、視覚障害者の不安定な視点を通して、驚愕の真相にたどり着く終章は圧巻です!
ぜひ、ダマされてください!!